1. はじめに
日本の製薬業界は、国内外の医療ニーズに応える重要な産業の一つであり、世界第3位の市場規模を有する。当業界は、高齢化が進む日本において、国民の健康維持と医療の質の向上に不可欠な役割を果たしている。また、グローバル市場においても、武田薬品や塩野義製薬、第一三共などの大手企業が存在感を示しており、革新的な新薬の開発や先進的な医療技術の導入を通じて、国際的な競争力を維持している。
日本の製薬業界は、厳しい法規制や承認プロセスを経て新薬を市場に投入する特性を持ち、これが業界全体の慎重な成長を支えている。しかし、急速に進展するバイオテクノロジーやデジタル技術の導入により、業界の競争環境は激化している。このような中、日本企業は研究開発(R&D)への投資を増やし、オープンイノベーションやグローバルなパートナーシップを通じて競争力を強化している。
本記事では、日本の製薬業界の現状、主要な企業、研究開発の取り組み、課題と将来展望について詳述し、当業界がどのように変化し進化しているのかを解説する。また、業界内でのキャリアについても触れ、当業界の就職に係る選考ステップおよび各ステップでのTipsを共有する。
2. 日本の製薬業界の現状
日本の製薬業界は、国内市場の大きさと研究開発力によって、世界でも重要な地位を占めている。しかし、近年は新薬の開発難易度が高まり、医療費の増大や高齢化社会の進展といった課題にも直面している。
2.1 業界規模と市場動向
日本の製薬業界は、2023年時点で約10兆円の市場規模を持ち、米国、中国に次ぐ世界第3位の医薬品市場である。日本国内には、武田薬品、第一三共、塩野義製薬、アステラス製薬などの大手企業があり、それらは世界的にも高い評価を受けている。日本の製薬業界の特徴は、国内市場への依存度が高い点にある。特に、少子高齢化に伴う医薬品需要の増加が国内の需要を支えている。一方で、外資系製薬企業も日本市場に積極的に参入しており、ファイザーやノバルティス、サノフィなどのグローバル企業が日本市場内でシェアを拡大している。これにより、当市場における競争は近年激化している。
2.2 主要製品・サービス
日本の製薬業界における主要な製品は、新薬とジェネリック医薬品の2つに大別される。
新薬開発の動向
新薬の開発には、従来型の医薬品に加えてバイオ医薬品や遺伝子治療など、革新的な技術が取り入れられている。日本は、新薬開発において高い技術力を持ち、特にがん治療薬や慢性疾患治療薬の分野で成果を挙げている。しかし、新薬開発には多額の費用と時間が必要であり、成功率も低いため、企業にとって大きなリスクが伴う。このため、大手製薬企業は開発の効率化を進め、AI技術を活用した薬剤設計により、開発プロセスの最適化を図っている。
ジェネリック医薬品
医療費抑制の観点から、ジェネリック医薬品の使用が推奨され、日本政府もその普及を進めている。ジェネリック医薬品は、新薬と同じ有効成分を持ちながら低価格で提供されるため、特に医療費の増加が問題視される高齢化社会において重要な役割を果たしている。2023年時点で、ジェネリック医薬品の市場シェアは80%を超えており、今後もその割合が増加すると予測されている。
バイオ医薬品と先端医療技術
バイオ医薬品は、遺伝子組み換え技術や細胞治療などを基盤とする医薬品であり、日本でも急速に成長している。特に抗体医薬品や細胞培養技術を応用した治療薬の開発が進んでおり、バイオシミラー(バイオ医薬品のジェネリック)も今後の市場拡大が期待されている。
2.3 法規制と承認プロセス
厚生労働省とPMDAの役割
日本における医薬品の承認は、厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)によって規制されている。PMDAは新薬の臨床試験データを精査し、医薬品の安全性や有効性を評価する。この承認プロセスは非常に厳格であり、患者の安全性を最優先とする制度設計がなされている。
承認プロセスの課題と最新動向
日本の承認プロセスは、他国と比較して時間がかかる傾向があり、これが市場における競争力の低下を招く一因となっている。これに対して、迅速承認制度や適応外使用の柔軟化など、承認プロセスの加速化を図る改革が進められている。また、デジタル技術やAIを活用した審査プロセスの自動化も導入され、今後さらに迅速かつ効率的な承認が期待されている。
3. 製薬業界における研究開発(R&D)の重要性
製薬業界における研究開発(R&D)は、業界の競争力を左右する最も重要な要素である。特に新薬の開発は、企業の長期的な成功を支える鍵であり、多額の投資が行われている。日本の製薬業界も例外ではなく、大手企業を中心に積極的な研究開発が進められている。このセクションでは、R&Dへの投資動向、オープンイノベーションの取り組み、デジタル技術の活用について詳述する。
3.1 日系製薬企業のR&D投資の現状
日本の製薬企業は、研究開発に多額の資金を投入しており、業界全体の売上高の約15~20%がR&Dに割り当てられている。特に、武田薬品、アステラス製薬、塩野義製薬といった大手企業は、グローバル市場での競争力を維持するために、革新的な医薬品や治療法の開発に力を注いでいる。
例えば、武田薬品は近年、オンコロジー(がん治療)、希少疾患、神経科学、消化器系疾患に重点を置いた研究開発を行っており、グローバルな提携やM&Aを通じて革新的な治療法を市場に投入している。また、アステラス製薬は遺伝子治療分野への投資を強化し、エーザイはアルツハイマー病治療薬の研究開発に注力していることで知られている。
一方、塩野義製薬は、グローバルな医薬品市場での競争力を高めるために、世界各地から優秀な研究者や専門家を積極的に採用し、国際的な開発体制を整備している。特に、感染症や神経障害、免疫疾患など、重点的に取り組む領域での研究開発において、国境を超えた協力関係を築いており、これにより治療薬の開発速度と効率が向上している。塩野義製薬のグローバルR&D戦略は、日本国内外の研究施設や大学、他の製薬企業との連携により、最先端の技術と知見を統合することに重点を置いている。このアプローチにより、新しい治療薬の開発に必要な研究の多様性と深さを確保しており、世界中の患者に新たな治療オプションを提供するための土台を築いている。また、2023年6月に公表されたプレスリリースによると、塩野義製薬は新たな研究開発施設の開設や既存施設の拡張にも力を入れており、これにより国際的な研究開発ネットワークのさらなる強化を図っている*1。
日本のR&D投資は、国内市場にとどまらず、世界市場を視野に入れた長期的な成長戦略の一環として行われており、各企業が世界規模での競争力を発揮するための重要な手段となっている。
3.2 オープンイノベーションと共同研究
近年、製薬業界における新薬開発は複雑化しており、企業単独での開発はリスクが高まっている。そのため、多くの企業が「オープンイノベーション」を採用し、外部の研究機関やベンチャー企業、大学との共同研究を進めている。
大学やベンチャー企業との連携事例
例えば、武田薬品は国内外の大学や研究機関と共同研究を行い、新たな治療法の開発を加速させている。大手製薬企業と大学が共同で基礎研究を行うことで、基礎科学の最新成果を迅速に応用し、新薬開発の効率化を図ることが可能となっている。また、日本国内では、バイオテクノロジー分野においてベンチャー企業の役割が拡大しており、製薬企業とベンチャー企業間での技術提携やライセンス契約が増加している。これにより、技術革新のスピードが向上し、製品化までの時間が短縮されている。
同様に、塩野義製薬もオープンイノベーションを積極的に取り入れており、特に新興市場と見なされる地域のベンチャー企業や大学との共同研究を推進している。たとえば、最新の取り組みとして、アフリカのヘルスケアスタートアップと共同で、感染症の早期発見と治療を目指した新技術の開発に乗り出している*2。このプロジェクトは、地元の医療ニーズに直接応えることを目指し、地域に根差した研究活動を通じて、グローバルな健康問題への対応を目指している。これらの共同研究は、新興市場におけるヘルスケアソリューションの開発だけでなく、世界的な医療アクセスの改善に寄与している。
グローバルな研究開発パートナーシップ
日本の製薬企業は、海外の製薬企業や研究機関との提携を強化している。グローバルなネットワークを活用し、各国で異なる専門知識や技術を取り入れることで、新薬の開発を加速させている。特に、米国や欧州のバイオテクノロジー企業との提携は、新たな治療分野の開拓において重要な役割を果たしている。
3.3 デジタル技術の導入
製薬業界において、デジタル技術やAI(人工知能)の導入が急速に進んでいる。新薬開発のプロセスは複雑で時間を要するが、AIやビッグデータを活用することで、効率的な薬剤設計や臨床試験の迅速化が期待されている。
AIによる新薬開発の革新
AIは膨大なデータを分析し、化合物の特性や潜在的な効果を予測するために使用されている。これにより、研究開発の初期段階におけるスクリーニングが効率化され、従来より短期間で有望な候補薬が見つかる可能性が高まっている。また、AIを用いた分子モデリングやシミュレーション技術により、臨床試験における成功率の向上も期待されている。
臨床試験でのデジタル技術の応用
臨床試験では、患者データのリアルタイム解析や、患者リクルートメントの効率化が進んでいる。これにより、より正確な試験結果を得ることができ、試験期間の短縮にもつながっている。特に、遠隔モニタリングや電子データキャプチャシステムの導入により、試験の透明性と効率性が向上している。
デジタル化がもたらす将来の可能性
今後もデジタル技術の進展に伴い、製薬業界全体が大きな変革を遂げることが予想されている。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、サプライチェーンの効率化や生産プロセスの自動化、さらにはマーケティングや販売戦略の最適化にも寄与することが期待されている。
4. 日本の製薬業界の課題と展望
日本の製薬業界は、高い技術力と国内外での研究開発実績を持ちながらも、いくつかの重要な課題に直面している。同時に、これらの課題に対する解決策が示されることで、業界のさらなる発展が期待される。このセクションでは、業界が直面する主な課題と、それぞれに対する展望を詳しく解説する。
4.1 新薬開発のコストとリスク
高騰する開発コスト
新薬の開発には多額の資金と長い時間が必要である。研究開発の進展に伴い、革新的な治療法の開発が求められる一方で、そのコストは年々増加している。新薬の承認に至るまでには、基礎研究、臨床試験、承認申請といった多段階のプロセスを経る必要があり、その全体のコストは1つの医薬品あたり数千億円にも及ぶことがある。また、開発途中で失敗するリスクも高く、投資が回収できないケースも少なくない。
対策と展望
この課題に対して、製薬企業はAI技術を導入し、開発プロセスの効率化を目指している。AIを用いたデータ解析や分子モデリングにより、開発初期段階での失敗率を低減し、コスト削減が図られることが期待されている。また、オープンイノベーションの促進により、研究開発の分散化とリスクシェアリングが進んでいる。特に、他国の製薬企業やバイオテクノロジー企業との連携は、今後も加速する見込みである。
4.2 規制改革の必要性
医薬品承認のスピードとグローバル競争力の低下
日本の製薬業界は、他国と比較して新薬の承認プロセスに時間がかかると指摘されている。特に、米国や欧州と比較して、日本市場での新薬の承認は遅れがちであり、グローバルな競争力に影響を与えている。日本国内での承認プロセスが遅いことで、国内患者が新薬にアクセスできるタイミングが遅れるケースも問題視されている。
規制の改善とデジタル技術の導入
この問題に対処するため、厚生労働省およびPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、迅速承認制度や特定疾患に対する優先審査の拡充など、規制改革を進めている。さらに、デジタル技術を活用した審査プロセスの効率化が進んでおり、これにより新薬の承認が早まり、競争力の強化が期待されている。
4.3 グローバル展開とイノベーションの促進
少子高齢化の影響とグローバル展開
日本は高齢化が進む国であり、市場規模は限られているが、少子高齢化によって新たな医薬品需要が増加している。事実、IQVIA INSTITUTEの調査によれば、国内新薬市場は2028年までの5年間で年平均成長率+1.3%の成長が見込まれている*3。特に、高齢者向けの治療薬や医療サービスに対する需要が高まっており、製薬業界にとっての成長機会を提供している。このため、革新的な医薬品や医療技術の開発が活発に行われており、国内市場だけでなくグローバル市場への展開も進められている。
このグローバル展開において、日本の製薬企業は特にアジア、北米、ヨーロッパの市場をターゲットにしており、当該地域における研究開発拠点や製造施設の設立を積極的に進めている。海外市場での新薬の登録と販売を加速させることで、グローバルな競争力をさらに強化している。特に、アジア市場では人口の増加と経済発展が進む中で、新しい医療ニーズが急速に高まっており、これに対応するための戦略的なアプローチが求められている。
国際連携の強化
グローバルな競争力を維持し、さらに拡大するためには、海外の研究機関や製薬企業との連携が不可欠である。日本の製薬企業は、国際的な研究開発ネットワークを通じて、最新の科学技術や市場データを取り入れ、共同で製品開発を進めることで、イノベーションを促進している。これにより、がん治療薬や希少疾患治療薬など、高度な医療ニーズに応える新薬の開発が加速されている。
5. 日本の製薬業界でのキャリア
日本の製薬業界は、国内外で多くの優秀な人材を引き付け、豊富なキャリアの機会を提供している。新薬の研究開発、製造、営業、マーケティングなど、幅広い職種が存在し、医療分野における多岐にわたるキャリアパスが展開されている。このセクションでは、日本の製薬業界における主要なキャリアオプションや必要なスキル、今後のキャリア展望について解説する。
5.1 製薬企業における主要な職種
研究開発(R&D)部門
研究開発部門は、製薬企業の心臓部であり、創薬プロセスの核となる部門である。ここでは、新薬の発見や前臨床・臨床試験が行われ、研究者や科学者、臨床試験コーディネーターなど、様々な専門職が活躍している。特に、バイオテクノロジーやゲノム解析、AIを活用した創薬技術の進歩により、R&D部門でのキャリアには高度な科学的知識と技術的スキルが求められている。
製造・生産管理部門
製薬企業における製造部門は、品質管理(QC)や品質保証(QA)などの分野で重要な役割を果たしている。製造現場では、GMP(Good Manufacturing Practice)に準拠した厳密な管理が求められ、正確かつ安全な医薬品の製造が行われる。この部門では、工場管理者や生産技術者、設備エンジニアなどの職種が多く、理工系出身者にとって魅力的なキャリアパスとなっている。
マーケティング・営業部門
製薬業界におけるマーケティングと営業は、医薬品を市場に投入し、医師や医療機関に対して情報提供を行う役割を担っている。特に、医薬情報担当者(MR: Medical Representative)は、医師とのコミュニケーションを通じて医薬品の適切な使用を促進し、製薬会社のビジネスの成長に貢献している。MRやマーケティング担当者には、医薬品の専門知識だけでなく、コミュニケーション能力や営業スキルが求められている。
規制対応・薬事部門
薬事部門は、新薬の承認や規制対応に関与する専門職であり、日本国内外の規制当局との連携が必要である。薬事業務は、製薬業界におけるグローバルな展開においても重要な役割を果たし、薬事スペシャリストや薬事マネージャーとしてのキャリアは非常に専門性が高く、需要が増している。法規制に関する知識や国際的なルールの理解が求められるため、薬学や法律のバックグラウンドが役立つ。
5.2 必要なスキルと資格
科学的知識と技術的スキル
製薬業界では、特に研究開発部門で働くためには、化学、生物学、薬学、工学といった科学分野の深い知識が求められる。また、バイオ医薬品や個別化医療、ゲノム解析といった最先端の技術に対応するスキルも重要である。大学や大学院での専門教育がキャリアの基盤となる一方で、業界特有の知識や規制の理解も求められる。
コミュニケーション能力とプレゼンテーションスキル
特に営業やマーケティング、薬事部門では、医療機関や規制当局との対話が多いため、効果的なコミュニケーションスキルが不可欠である。専門的な内容をわかりやすく伝えるプレゼンテーション能力や、医療従事者との信頼関係を築く能力が、業界内での成功を左右する。
語学力とグローバルな視野
日本の製薬業界は国際市場での競争力強化を目指しており、海外との連携や規制対応が重要である。そのため、英語をはじめとする多言語能力はキャリア形成において非常に有利である。特に、薬事部門や国際業務を担当する職種では、高い語学力が要求される。さらに、国際的な視点で医薬品市場を理解し、グローバル展開を視野に入れた戦略を持つことも重要である。
5.3 就労先としての日系製薬企業の魅力
給与水準:
日系: 日系製薬企業の給与水準は全体的に安定しており、ベース給与が堅実であることが特徴である。年功序列の文化が根強く残る中で、勤続年数に応じて給与が段階的に上昇する傾向にある。特に近年では、日本全体の賃上げムードを反映し、製薬業界においても賃上げが相次いでいる*4。多くの企業が年に1~2回のボーナスを支給しており、これも従業員にとって魅力的な要素となっている。
外資: 外資系企業では、給与水準が比較的高く、特に初任給が日系企業よりも高い場合が多い。外資系では、パフォーマンスベースの評価が一般的であり、短期間で大幅な昇給が期待できる一方で、業績や成果に対するプレッシャーも大きい。また、インセンティブボーナスなど、業績に応じた報酬制度も充実しているが、報酬が業績に左右されやすく、安定性の面では不確実性がある。
雇用の安定性とキャリア開発の機会:
日系: 日系製薬企業は、従業員に長期的な雇用を保証し、安定したキャリアパスを提供することで知られている。平均勤続年数が15年を超えることが多く、企業は従業員の長期的な成長と発展を支援している*5。このような環境は、従業員が仕事に対して安心感を持ち、長期的な目標に向かって努力する動機付けとなる。
外資: 外資系企業では、パフォーマンスベースの評価が主流であり、雇用の流動性が高いが、キャリアアップの機会は迅速で、多国籍な経験が積めるというメリットがある。しかし、この環境では、仕事の不安定さやプレッシャーを感じることも少なくない。
福利厚生:
日系: 日系製薬企業は、福利厚生が非常に充実しており、家族手当や住宅支援など、従業員の生活全般をサポートする制度が整っている。これにより、従業員は仕事と生活のバランスを保ちやすく、家庭との両立がしやすい環境が提供されている。
外資: 給与が高いことが多いが、福利厚生はポジションやキャリアレベルによって異なり、日系企業ほど手厚くない場合もある。高い給与が得られる反面、福利厚生が不十分な場合、生活の質に影響を与えることがある。
研究開発への投資:
日系: 日系製薬企業は、研究開発に対する投資を堅実に行っている。これにより、従業員は安定した研究環境で働くことができる。
外資: 外資系企業は、グローバル市場における競争力を高めるために大規模な投資を行っているが、急激なプロジェクトの変動や中断が見られることもある。新技術や治療法へのアクセスは早いが、変化に伴うリスクも高い。
組織文化とワークライフバランス:
日系: 日系企業は、社員間の強い連帯感と協力関係を重視する文化が特徴である。上司と部下の関係が密接で、従業員が一丸となって目標を達成する姿勢が根付いている。ワークライフバランスを重視する動きも進んでおり、働きやすい環境が整いつつある。
外資: 外資系企業では、水平的なコミュニケーションが奨励され、意思決定が迅速である。フレキシブルな働き方が可能で、ワークライフバランスを取りやすいとされるが、高いパフォーマンスが求められるため、プレッシャーを感じることもある。
以上のように、日系製薬企業は長期的な雇用安定性、充実した福利厚生、持続可能な研究環境、そして協力的な組織文化を提供する点で、従業員にとって非常に魅力的な職場環境を提供している。
5.4 今後のキャリア展望
AIやデジタルヘルスの普及による新たな職種の創出
今後、AIやデジタル技術の進展により、新たな職種や役割が製薬業界で生まれる可能性がある。データサイエンティストやAI専門家が創薬や臨床試験の効率化に貢献するだけでなく、デジタルヘルスケアの普及に伴い、ITや医療機器との連携を図る職種も増えるだろう。こうした新たな分野でのスキルを持つ人材は、今後の業界での需要が高まると予想される。
スタートアップ企業でのキャリアチャンス
製薬業界では、バイオテクノロジーや再生医療などを手掛けるスタートアップ企業が増えており、ベンチャー企業でのキャリアも魅力的な選択肢である。大企業とは異なる柔軟な働き方や、革新的な技術開発に携わる機会が提供されるため、自己成長や専門分野での知識を活かす場として注目されている。
6. 日系製薬企業の選考プロセスとオファー獲得に向けたTips
日系製薬業界でキャリアを築くことを目指す海外大学の学生が、オファーを獲得するまでに踏むべき選考プロセスは以下の通りである。
大学生活
業界研究
エントリーシート
適性検査
面接
インターンシップ
最終面接 → 内定
各ステップにおいて、学生がどのように対応すべきか、役立つTipsを紹介する。
大学生活(大学1年生8月頃〜エントリーまで)
概要
製薬業界では、専門知識の深さが非常に重視される。そのため、生物学や化学といった関連科学分野の知識を深めることが重要である。また、問題解決能力やクリティカルシンキングを養う活動も有益である。
対応事項
専門知識を深めるために、科学関連の課外活動や研究プロジェクトに積極的に参加すること。これにより、専門性を示すと同時に、チームワークやリーダーシップの能力も育成される。
Tips
製薬企業は、研究に情熱を持つ候補者を高く評価する。自らの研究やプロジェクトについて、情熱を持って語れるように準備し、具体的な成果を示せるようにすることが重要である。
業界研究(大学2年生6月頃〜エントリーまで)
概要
製薬業界の現状、新薬開発の動向、市場のトレンド、重要な規制の変更、そして各企業の状況などを深く理解することが求められる。特に、技術革新が業界に与える影響についても把握しておく必要がある。ビジネスモデルや各企業についての理解度を高めることで、自分にフィットする企業を見つけることができる他、面接においても志望度の高さをアピールできる。
対応事項
業界誌、科学ジャーナル、オンラインフォーラムをはじめとする多様な情報源から、最新の業界動向を常に追い続けること。
各企業の説明会への参加や社員訪問を行う。これらは、デスクリサーチでは得ることができない生の声を得る上で非常に有効な手段である。後者については、Jelper ClubやLinkedIn、ビズリーチなどのツールを活用することで、社員訪問の手配を効率的に行うことができる。
Tips
社員訪問の実績は企業への志望度を示す一つの証拠にもなるため、積極的に行うこと。
社員訪問の依頼メールや訪問時等に、社員の方に礼を失することのないように、ビジネスマナーを確認すること。
社員訪問の依頼は、社員側が空いている時間に確認できるように、電話ではなくメールで依頼すること。
社員訪問の際の質問は、少し調べたら分かるような事ではなく、実際に働く社員の方からしか得ることができないような「生の声」を集めることを意識して質問内容を用意すること。そのためには、最初に用意したいくつかの質問に対して、自分の仮説を用意し、ぶつけてみること。それによって、より良い議論が生まれる他、貴重な回答が得られるケースも多い。
エントリーシート(大学3年生5月頃〜エントリー締め切りまで)
概要
自己PRや志望動機では、単にスキルや経験を列挙するだけでなく、自分自身の経験やその背景等を基に、自分がどのようにして製薬業界で活躍できるか、自身の強みがどのように業界や社風にマッチするかを具体的に示すことが求められる。
対応事項
学術背景や研究経験、業界への深い理解を反映させた内容を用意する。具体的な事例を用いて自己PRを行うこと。また、それらがロジカルにリンクしていることが分かるような文章を書くこと。
Tips
エントリーシートの内容を複数の人にレビューしてもらい、客観的な意見を取り入れる。また、プロフェッショナルでわかりやすい書類を作成することが重要である。
適性検査(大学3年生6月頃〜適性検査締め切りまで)
概要
SPIやC-GABと呼ばれるテストを受ける場合がある。Web上で適性検査を受検できる場合が多いが、テストセンターまで足を運び、適性検査を受ける必要のあるケースも存在するため、事前に確認してほしい。
対応事項
Tips
適性検査の関門はその難易度より制限時間の短さにあるため、問題形式に慣れれば慣れるほど成績を上げることが可能である。何回も解くこと。
適性検査は他の企業で前回提出したデータを再利用して提出することが可能なので、他業界で同じ適性検査の受験を求めている企業を受けてみるのも良いだろう。出来が良ければそのまま再利用して提出すること。
面接(大学3年生10月頃〜大学4年生6月頃まで)
概要
専門知識だけでなく、倫理観やコミュニケーションスキルも重視される。面接では、具体的な事例を用いて自分の考えや経験を説明する能力が試される。また、英語力を問うために、英語面接を行う場合もある。初期段階では録画面接を実施する企業も存在する。
対応事項
日本語と英語の両方に対応できる面接の想定問答集を作成すること。以下は想定質問であるが、自身で追加の質問や自身の状況に応じた深堀りの質問を検討し、用意すること。
自己紹介(ご自身について簡単に紹介してください。)
自己PR(あなたの強みは何ですか?)
自身の長所と短所(あなたの長所と短所を教えてください。)
志望動機(なぜ当社を志望されたのですか?)
製薬業界の志望動機(なぜ製薬業界を選ばれたのですか?)
会社(職種別)の志望動機(なぜ当職種に応募されたのですか?)
アカデミアのキャリアとの比較(なぜアカデミアではなくインダストリーを志望されたのですか?)
中長期的なキャリアビジョン(5年後、どのようなキャリアを望んでいるのか?)
研究
研究内容(これまでの研究内容を教えてください。)
研究姿勢(研究に対する姿勢やアプローチについて教えてください。)
教授との関わり方(教授や研究室の仲間との関係について教えてください。)
その他、大学時代に努力したこと(課外活動)について(大学時代、研究以外で努力されたことがあれば教えてください。)
困難な場面に直面した際にどうするか(過去に直面した具体的な困難な状況を教えてください。そして、その状況をどのように乗り越えたのか、取った行動を教えてください。)
チームワークに関する質問(チームで仕事を進める際、どのようにしてメンバーと協力し、課題を解決してきたのか、具体的な事例を教えてください。)
リーダーシップに関する質問(チームを率いた経験があれば、それについて教えてください。どのようなリーダーシップを発揮し、どのような成果を上げましたか?)
業界のトレンドや専門知識に関する質問(◯◯が製薬業界に与える影響についてどのように考えますか?)
転勤について(転勤の可能性についてどのように考えていますか?)
逆質問
友達、先輩(可能なら製薬業界内定者)と面接練習を行う。フィードバックを受ける
Tips
自己紹介の際だけでなく、質問に対しても具体的で説得力のある回答を用意すること。礼儀正しく、自信を持って振る舞うことが求められる。
研究内容など専門性の高い質問をされた際は、初めてその分野に触れる人にも分かりやすい形式での回答を心がけること。
面接練習を積極的に行い、他人から見た自分に対する客観的なフィードバックを受けることで、面接の精度を上げることができる。フィードバックを真摯に受け止め、次への改善点として活用することで、回答の質を上げることができる。
インターンシップ(大学3年生6月頃〜大学4年生6月頃まで)
概要
実際の業務を体験し、企業の文化や業務内容を理解するとともに、自身の実務能力も評価される機会である。
対応事項
積極的に業務に参加し、チーム内で協力しながら問題を解決する能力を示すこと。
Tips
インターンシップ中に学んだことや体験したことを詳細に記録し、面接や最終選考で具体的に話せるようにすることが有効である。
最終面接(大学4年生10月頃〜大学4年生6月頃まで)
概要
候補者の総合的な評価が行われ、業界への理解と情熱が最も重要視される。1次、2次面接と比較して硬い雰囲気で行われる場合が多い。
対応事項
準備することは他の面接と変わらない。上記の想定質問を参考に用意すること。
Tips
過去のインターンシップや研究経験を活かし、具体的な例を交えながら自分の強みと業界への情熱をアピールすることが重要である。
毎年選考スケジュールは変更になることがあり、また海外大生向けに独自のスケジュールを設ける企業もあるため、各企業の新卒採用ページで詳細なスケジュールや募集要項を確認すること。
7. まとめ
日本の製薬業界は、国内外において医療の進展を支える重要な役割を果たしており、今後もその影響力を拡大していくと予測される。国内市場の成熟やグローバル競争の激化など、様々な課題に直面しているものの、技術革新や規制の進展に伴うチャンスは非常に大きく、特にバイオテクノロジーやデジタルヘルスケア分野での成長が期待されている。
今後の製薬業界では、技術革新とともに国際展開が進む中で、国内外の規制に対応しながら、より効果的かつ革新的な医薬品開発が求められている。製薬業界でのキャリアを目指す人々にとって、科学的知識や技術スキルの習得に加え、グローバルな視野を持った柔軟な対応力が必要不可欠である。今後の成長を支えるリーダーとしての人材が業界の未来を切り開いていくことになるだろう。
製薬業界への就職を検討する際、Jelper Clubは適切なリソースと求人情報を提供する最適なプラットフォームである。当プラットフォームには、様々な製薬業界企業のプロフィールやJelper Club限定の求人情報が掲載されている。 また、「Soirée Tokyo」などJelper Clubの主催する対面イベントには、実際に製薬業界で働く会員も参加している。これらのイベントは会員同士のネットワーキングの場としても非常に有効である。参加者は一堂に会して製薬業界の最新トレンドや魅力、キャリアのTips、選考の情報などを共有する機会を持つことができるだろう。Jelper Clubでは今後も積極的に当該分野の求人募集の掲載を行い、魅力的なキャリア機会を提供していく予定である。ぜひ頻繁に「Job Updates」を確認してもらいたい。
また、Jelper Clubでは今後もさまざまな業界・職種を解説する記事もパブリッシュしていく。気になる業界について、積極的に「Feed」にて質問や疑問を発信してほしい。
(執筆・編集:Jelper Club編集チーム)
出典・注記
1.「米国Qpex Biopharma社の完全子会社化に関するお知らせ」(塩野義製薬株式会社):
2. 「Signing of Collaboration Agreement in the Third Phase of the "Mother to Mother SHIONOGI Project" - App Development for Diarrhea Prevention in Tanzania -」(塩野義製薬株式会社):https://www.shionogi.com/global/en/news/2023/12/20231222.html
3. 「28年医薬品市場予測 日本はマイナスまたは低成長も世界3位を維持 新薬は伸長も特許切れ後市場は縮小」(ミクスOnline):https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=76023
4. 「製薬も初任給引き上げ、5000~1万5000円 優秀人材確保へ、企業姿勢をアピール」(日刊薬業):https://nk.jiho.jp/article/188622
5. 「製薬業界 勤続年数ランキング」(業界動向サーチ):https://gyokai-search.com/4-iyaku-kinzoku.htm