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働きがいのある環境を創る:日系企業の福利厚生制度



1. はじめに


日本の職場文化において、福利厚生は単なる待遇の一部であるだけでなく、従業員とその家族の生活を支え、仕事と私生活のバランスを保つための重要な役割を担っている。海外の大学生が日系企業を目指す際、その魅力的な福利厚生はしばしば大きな決め手となる。本記事では、特に海外大学生に向けて、日系企業が提供する福利厚生の種類とその特徴、さらにはこれらが従業員のキャリアにどのように影響を与えるかを解説する。


日系企業の福利厚生が充実している理由は、長期的な人材育成と社員のロイヤリティ向上を目指す企業文化に根ざしている。福利厚生は給料やボーナスとは異なり、直接的な金銭的な報酬だけではなく、健康管理、育児支援、住宅支援など、社員の生活全般にわたるサポートを形成している。これにより、従業員は安心して長期的に企業に貢献することが可能となり、企業と社員との間で相互の信頼関係が築かれる。


また、日本企業の給与水準は、表面的には欧米企業と比較して低く見えることがある。しかし、充実した福利厚生によって提供される各種手当や補助を考慮すると、実質的な総報酬は決して見劣りするものではない。健康保険や企業年金、家賃補助、通勤手当などの各種手当、さらには企業独自の支援制度などが加わることで、従業員の生活コストが抑えられ、結果として可処分所得が増加するケースも多い。このように、単純な給与比較だけでは測れない魅力が日本企業には存在する。


このような背景から、日本企業の福利厚生制度は単に「働きやすい環境」を超え、「働きがいのある環境」を提供するためのものとなっている。本記事では、日系企業の福利厚生の特徴とその魅力について解説する。



2. 福利厚生の種類


日系企業における福利厚生は、従業員とその家族の幸福を維持し、仕事と生活のバランスを取る上で多岐にわたる形で提供されている。以下に主要なカテゴリーに分けて具体例とともに解説する。


  1. 健康と安全:日本の多くの企業において、従業員だけでなくその家族も福利厚生の対象となることが一般的である。以下に、従業員の家族が受けることができる健康に関連する福利厚生の具体例を示す。

    • 医療保険:日本のほとんどの企業は、全従業員に対して医療保険を提供している。これにより、病気や怪我の際に適切な治療を受けることができる。また、日本の企業が提供する医療保険プランは、多くの場合、従業員の配偶者や子どもを含む家族全員をカバーする。

    • 定期健康診断:年に一度の健康診断は、従業員の健康状態をチェックし早期に問題を発見するために実施されている。さらに一部の企業では、従業員の家族向けにも健康診断を提供している。

    • メンタルヘルスサポート:ストレス管理研修やカウンセリングサービスが提供され、心の健康も重視されている。

    • ユニークな健康管理と支援の事例:

      • DeNAのCHO(Chief Health Officer)室:社員の健康を支える専門部署であり、健康増進プログラムを積極的に展開している*1

      • SCSKの健康ワクワクマイレージ:健康行動をポイント化し、賞与に反映する制度が導入されている*2

      • サイバーエージェントのマッサージルーム:無料で月4回までマッサージ師による施術が受けられるマッサージルームを完備している*3


  2. ワークライフバランス:コロナ禍を経て、日系企業でもワークライフバランスの重視が進んでいる。フレックスタイム制やリモートワークなど、従来の働き方に代わる新しい働き方が多くの企業で採用されている。

    • フレックスタイム制度:出勤と退勤の時刻を自由に選べる制度で、ライフスタイルに合わせた働き方が可能である。

    • リモートワークのサポート:家庭と仕事のバランスを取りやすくするため、在宅勤務を支援している。

    • 長期休暇制度:産休や育休はもちろん、介護休暇など、長期にわたる休暇が取得しやすい。

    • ユニークなワークライフバランスに関する制度の事例

      • LINEヤフーのサバティカル休暇:勤続10年以上の社員が長期休暇を取得し、自己再生やスキルアップを図ることができる*4

      • 伊藤忠の朝方勤務:従業員の効率性とワークライフバランスの向上を目指し、「朝型勤務制度」を導入している。早朝勤務に対するインセンティブとして、深夜勤務同様の割増賃金を支給し、8時前に出社する社員には軽食を無料で提供している*5


  3. キャリア開発

    • 社内研修と外部研修のサポート:多くの日系企業では専門スキルやリーダーシップ能力の向上を目指し、多様な研修が用意されている。

    • 資格取得支援:職務に関連する資格を取得するための費用支援や勉強時間の確保が行われている。


  4. 金銭的なサポート

    • 通勤手当:従業員の通勤費用を支援するために支給される。

    • 住宅支援:家賃補助や社宅提供など、住宅に関する経済的負担を軽減する。

    • ボーナスや退職金制度:成果に応じた報酬や、長期勤務に対する退職金が支給される。

    • 奨学金返済制度:社員が大学在学中に借りた奨学金を企業が肩代わりして返済する制度を導入する企業が増えている*6

    • 独自の住宅支援制度の事例:

      • サイバーエージェントの家賃補助:通勤圏内に住むことで家賃補助が受けられる「2駅ルール」などがある*3


  5. ライフステージに対応する制度

    • 育児と教育支援:

      • 育児休暇制度:従業員が子どもを育てる初期段階で必要な時間を確保できるように、男女共に取得可能な育児休暇を提供している。

    • 女性のキャリア支援:

      • 女性活躍促進制度:女性社員が長く活躍できるように、不妊治療のための休暇や短時間勤務制度などを拡充させる企業が増加している。

      • 妊活、卵子凍結費用の一部補助:一部の企業は、キャリアと家庭生活の両立を目指す女性を支援するため、妊活や卵子凍結の費用の一部を補助し、生殖医療にかかる経済的負担を軽減している*7

    • 高齢期の支援:

      • 再雇用制度:定年後も引き続き働きたい従業員のための再雇用制度を設けており、年齢を問わず活躍できる職場環境を提供している。

      • 退職後の生活支援:退職後の生活計画のアドバイスや、退職金制度の充実など、安定した老後を送るための支援が整っている。


  6. その他

    上記以外で、ユニークな福利厚生を導入している日系企業も多い。以下に例を示す。

    • GMOインターネットのシナジーカフェ:社内には24時間365日利用可能なカフェがあり、ドリンクやパン、ランチビュッフェなどが無料で提供されている。金曜の夜にはバーへと変わり、提供されるお酒や軽食ももちろん無料で楽しめる*8

    • ジオコードのサッカー休暇:ワールドカップやオリンピックなどの公式戦に合わせて特別休暇を付与する。日本代表の進出状況に応じて臨時休暇が追加されるほか、深夜・未明の試合に備えた宿泊費やタクシー代も会社が負担する*9

    • 株式会社ゆめみの10%ルール:業務時間の10%を案件稼働ではなく、ラボ活動やサービス開発、ボランティア活動などに充てることができる制度である。本制度を通じて顧客に貢献するサービス開発や技術開発の推進を図っている*10

    • 株式会社サニーサイドアップの失恋休暇:文字どおり、失恋した際に取得できる休暇制度であり、その相手が現実の人物でなくても問題はない。二次元・三次元のキャラクターを応援する従業員の心身の健康を守る側面も持つ制度である*11



3. 日系企業の福利厚生のユニークな点


日系企業の福利厚生が注目される主な理由は、その設計が従業員の長期的なキャリア支援と全体的な福祉に焦点を当てている点にある。このアプローチは、外資系企業と比較しても基本給が低い場合であっても、福利厚生の充実が従業員にとって大きな魅力となり、ポジティブな影響を与える要因となっている。


  1. 文化的背景に根差した福利厚生の特徴

    1. 長期雇用を前提とした設計:日本の企業文化は伝統的に長期雇用を重視しており、それに伴い退職金制度や長期にわたる健康保険の提供が整っている。これは、従業員が一企業に長く留まることを奨励し、キャリアの安定を支援する役割を果たしている。

    2. 従業員の教育とスキル向上への投資:日系企業はポテンシャル採用を積極的に行っており、採用時の即戦力よりも個々の成長可能性を重視する傾向にある。このため、企業内での人材育成に長年取り組んでいる。具体的には、従業員のスキルアップと専門知識の拡充を積極的に支援しており、定期的な研修プログラム、資格取得支援、外部セミナーへの参加支援などを通じて、従業員の個人的成長と職業的成長を促進している。


こうした側面から、日系企業の福利厚生制度は、単なる労働条件の一部としてではなく、従業員とその家族の長期的な福祉を促進し、社員の忠誠心と企業への貢献を高めるための戦略的なツールとして機能していることが分かる。



4. まとめ


本記事を通じて、日系企業の福利厚生が従業員とその家族の生活に及ぼす影響について詳細に解説してきた。日系企業における福利厚生制度の充実は、従業員が職場での生産性を高め、プライベートでも充実した生活を送ることを可能にする。ここで、福利厚生の重要性と、それがキャリア選択における重要な考慮事項である理由を再確認する。


  1. 福利厚生の役割

    • 福利厚生は、従業員が仕事と私生活のバランスを取る上で中核的な役割を果たしている。特に、健康管理、家族支援、キャリア発展のための教育支援などがこれに該当する。

    • これらの制度は、従業員の満足度を高めるだけでなく、企業の生産性向上にも直接的に寄与している。

  2. キャリア選択における重要性

    • 福利厚生の充実した職場は、従業員にとって魅力的な選択肢となる。

    • 良好な福利厚生は、従業員が長期にわたり企業に留まる動機付けとなり、キャリアの持続可能性を支援する。


最終的に、日系企業が提供する福利厚生の質は、従業員だけでなく企業にとっても大きな価値を持つ。これを適切に評価し選択することで、従業員は自身と家族のために最も適した職場環境を確保することができる。


Jelper Clubは今後も、多様な背景を持つ人々が日本でキャリアを築くためのサポートを強化していく予定である。日本の就職活動や日本でのキャリアに関する疑問があれば、積極的に「Thread」で発信していただきたい。



出典・注記


1.「従業員とともに」(DeNA):https://csr.dena.com/jp/cho-office/

2.「健康関連4つの施策」(SCSK株式会社):https://www.scsk.jp/corp/csr/professionals/health/measure.html

3.「福利厚生」(株式会社サイバーエージェント):https://www.cyberagent.co.jp/sustainability/info/detail/id=26074

4.「働き環境」(LINEヤフー):https://www.lycorp.co.jp/ja/recruit/workplace/

5.「朝方勤務」(伊藤忠商事株式会社):https://www.itochu.co.jp/ja/about/work_style/case01/index.html

6.「社員の奨学金を肩代わり、1000社超す 人材確保に新手」(日本経済新聞):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC073A90X01C23A1000000/

7.「卵子凍結、企業で支援広がる メルカリやデロイトなど」(日本経済新聞):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC230NT0T20C22A5000000/

8.「GMO 福利厚生『シナジーカフェ Yours』とは?」(Wantedly):https://www.wantedly.com/companies/gmo-media/post_articles/376781

9.「日本代表を一丸となって応援、予選突破で「サッカー休暇」を発令!」(GEO CODE):https://www.geo-code.co.jp/media/press/20140610.html

10.「ゆめみオープンハンドブック」(ゆめみ):https://yumemi.notion.site/cfc9c58ef5ce43a5bdb9b9311e565365

11. 「32 BENEFITS」(株式会社サニーサイドアップの失恋休暇):https://www.ssu.co.jp/corporate/32rule/




(執筆・編集:Jelper Club編集チーム)


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