日本への移住・就労を検討する上で頻繁に話題に挙がるのが、日本に対する以下のイメージである。
日本への移住は極めて難しい
日本は難民に冷たい
日本は外国人の移住に対してネガティブ
本記事では、Jelper Clubの会員が実際に日本に移住および日本で就労することの難易度や、上記のような日本の移民政策に対するグローバルでの言説を、在留資格の獲得難易度という観点から分析し、実態に対する考察を展開していく。
※本記事はあくまでパブリックデータから引用した情報を基に執筆した記事であり、本記事から派生した事象に対し、弊社は一切の法的責任を負いかねます。法的な観点等については、法律事務所や行政書士事務所にお問い合わせください。
就労外国人のカテゴリー
日本の出入国管理及び難民認定法上、外国人(日本国籍を持たない者)は、日本において以下の形態で就労が可能である。
就労目的で在留が認められる者(「専門的・技術的分野」)
身分に基づき在留する者(「定住者」(主に日系人)、「永住者」、「日本人の配偶者等」等)
特定活動(技能実習、EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、外交官等に雇用される家事使用人、ワーキングホリデー等)
資格外活動(留学生のアルバイト等)
Jelper Clubのメンバーのフルタイム就労先の傾向を鑑みると、上記の1に該当するケースが殆どであるため、本記事では1を中心に見ていく。
就労目的で在留が認められる者*1
就労目的での在留が認められるには、いわゆる「専門的・技術的分野」に該当する職種に就く必要がある。この「専門的・技術的分野」は「高度な専門的職業」、「大卒ホワイトカラー、技術者」、「外国人特有又は特殊な能力等を活かした職業」の3つに分けられる。それぞれの主な在留資格は以下の通りである。
図1:「専門的・技術的分野」に該当する職種の内訳
この中でも特にJelper Clubメンバーが日本に新卒で就労する上で適用される率が高いのが、「技術」「人文知識」の2つである*2。これらの具体的な取得要件は以下の通り。
従事しようとする業務について次のいずれかに該当し、必要な知識を修得していること
当該知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し、又はこれと同等以上の教育を受けたこと
当該知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程を修了(当該終了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと
10年以上の実務経験(大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。
すなわち、大学における専攻と関連した業務に就ければ、新卒であっても「技術」「人文知識」に該当し、日本での就労許可が下りることとなる。
なお、「技術」「人文知識」において日本語に関する要件はないが、日本語能力が必要な業務(営業など)については、一定程度の日本語能力が考慮される。一方で、エンジニアなど、日本語を使わないような業務については、日本語能力が見られるケースは少ない。よって、日本語能力が低い外国人は、日本語能力が特段必要ないエンジニア業務などに就くことができれば、日本での就労許可は更に降りやすくなる。
在留資格(就労資格)申請通過率
では、実際のところ、就労に関わる在留資格は獲得しやすいのか。以下のグラフは、在留資格申請通過率を示したグラフである。
図1:2018年~2022年の在留資格認定証明書交付申請処理数・認定数・認定割合の推移*3
上図を読み取ると、就労資格を伴う在留資格認定証明書の処理数は2020年以降大幅に減少している一方、交付割合は2022年にかけて上昇トレンドにあることが分かる。特に2021年、2022年は約90%もの交付割合を記録しており、日本で就労したい外国人にとってはこの上なく向かい風の状況であることが分かる。各在留資格の処理数に関するデータは非公開となっているため、交付割合についても算出しかねるが、現在の日本の人手不足の状況から見ても、特に「専門的・技術的分野」での在留資格については、交付率が高いことが予想される。少子高齢化に伴う労働人口の減少と、それに起因した人手不足により、今後も就労資格を伴う在留資格認定証明書の交付率は高い状態を維持するだろう。
難民在留認定割合
日本の難民政策に対し、ネガティブな意見を主張する海外の専門家やメディアは後を絶たない。特に昨年6月に成立した改正入管難民法により、3回以上の難民申請については、「相当な理由」が示されなければ本国に送還できるようになった*4ため、「日本は難民を受け入れない国」という言説を唱えるメディアが更に増えている*5。
冒頭に記載した「日本は難民に冷たい」という言説は事実なのだろうか。各国の難民在留認定割合(難民正式認定率・難民とは認定しないが、人道的な配慮等を理由に在留を認めた割合の合計)を表したのが以下の図である。
図2:主要6カ国および日本の難民在留認定割合*6
上記の図から分かる通り、日本は2021年以降、難民在留認定割合を急激に伸ばしており、2022年はオーストラリアやアメリカを上回り、2017年6月に「難民受け入れはヨーロッパの伝統であり栄誉である」と発言したマクロンを大統領に据えるフランスの数値に近づいている*7。特に2022年については、ロシアのウクライナ侵攻に伴う避難民を多く受け入れたため、高い難民在留認定割合になっていることが考えられる。勿論、今後改善する余地はあるものの、「日本が難民に冷たい」という言説は、近年の傾向を鑑みると必ずしも正しくないことが分かる。
まとめ
「日本への移住は難しいのか?」
答えはNoである。
まず、外国人が日本で就労することの難易度は、在留資格の獲得難易度という観点から捉えると決して高くない。特にJelper Clubの会員のように、特定の領域で高い専門性を持った学生は、その専門性を活用する職種に就けば、比較的容易に在留資格を獲得することができるだろう。
そして難民の受け入れについては、未だ課題はあるものの、日本は難民に対する在留資格の付与について以前と比べて寛容的になっており、「日本が難民に冷たい」という言説は、現状においては必ずしも正しくない。
勿論、本記事で示したファクトに対し、様々な見方や意見があるのは事実であろう。しかしながら、日本への移住は制度的には難しくないため、制度に対して一定のハードルを感じている読者は、安心して日本への移住を検討してもらいたいと思う。
(編集:Jelper Club編集チーム)
出典・注記
1. 「我が国で就労する外国人のカテゴリー(厚生労働省)」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin16/
2. 国際業務については、「従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること」という要件を満たす必要がある(翻訳,通訳又は語学の指導に係る業務は不要)ため、新卒での入社が基本となるJelper Clubの会員にとっては、必ずしも該当するケースではないことから、上記から除外。
3. 「出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等 在留資格認定証明書交付人員」(出入国在留管理庁); 「出入国在留管理をめぐる近年の状況」(法務省); 在留資格(非就労資格を除く)認定証明書交付割合=在留資格(非就労資格を除く)認定証明書交付申請処理数÷在留資格(非就労資格を除く)認定証明書交付人員数; 就労資格別の在留資格認定証明書交付人員数が非公開となっているため、非就労資格については、非就労資格の在留資格認定証明書交付人員数=非就労資格の在留資格認定証明書交付処理数と仮定。その上で、出入国在留管理庁の在留資格認定証明書交付人員のうち、非就労資格に該当する文化活動、留学、研修、家族滞在、到底活動、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者への交付人員数を、全体の交付人員数および処理数から除く処理を実施
4. 「入管法改正が参院で可決・成立 難民申請、3回目以降は送還可能に」(朝日新聞DIGITAL):https://www.asahi.com/articles/ASR694FPJR50UTIL04C.html
5. "Japan is making asylum even harder for refugees" (The Economist): https://www.economist.com/asia/2023/06/28/japan-is-making-asylum-even-harder-for-refugees
6. 出入国在留管理庁による、難民認定者数等についての各年プレスリリースを参照; "Refugee Data Finder" (UNHCR): https://www.unhcr.org/refugee-statistics/download/?url=F339Ti; 日本については出入国在留管理庁のデータ参照、それ以外の国についてはUNHCRのデータ参照; 日本の難民在留認定率=(難民と認定した外国人+難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人)/(難民認定申請者数+審査請求(不服申し立て)); 日本以外の難民在留認定率=(Recognized decisions+Complementary protection) / Total Decisions
7. 「フランスにおける「移民・難民危機」と尊厳(1) ―抵抗運動の背景としての「移民・難民をめぐる政治」―」(森 千香子):https://www.jstage.jst.go.jp/article/kantoh/2019/32/2019_34/_pdf
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