Introduction
日系企業の中でも人気のある総合商社。その多岐にわたる事業内容と国際的な展開で、将来海外を舞台に働きたいと願う多くの学生にとって、魅力的なキャリアパスを提供している。海外の大学で学びグローバルな視野を持つ学生たちにとっても、文化や言語の多様性を生かし、国際的なビジネスシーンで活躍することができる総合商社は極めて魅力的な就職先の一つである。実際にCFNの「海外大生が選ぶ就職希望企業ランキング2023-2024」によれば、外資系コンサルや金融が並ぶ中、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事の4社が上位20社の中にランクインしている*1。
そんな総合商社に就職するには、就職活動本番前の企業理解を深めることが重要である。国内大学の学生の多くは、企業研究の手段の一つである社員訪問(OB訪問)などに力を入れている一方で、ツテの少ない海外大生にとっては、実際に社員の方から事業や働き方に関する話を聞く機会が限られている。そうした障壁を乗り越え内定を得るには、戦略的な準備が必要となる。本記事では、総合商社の概要に関する説明および総合商社に就職するための具体的な方策について記載していく。
そもそも総合商社とは?
総合商社は、その名の通り、多岐にわたるビジネスを一手に担う複合的な企業である。三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、そして丸紅は、所謂五大商社と呼ばれ、これらに双日、豊田通商を加えた7企業が七大商社と総称されている。総合商社は世界中の様々な業界で資源、食品、エネルギー、機械、化学品、そしてさらにはデジタル技術やインフラなど、ほぼ全ての産業セクターにわたって事業を展開している。“ラーメンからロケットまで”とは、総合商社の事業の幅を端的に表す言葉として知られているものの、各社が独自の強みと戦略を持っており、色は様々だ。例えば、三菱商事はバランスの取れた事業経営を行っており、「金属資源」に強みを持つ一方で、伊藤忠商事は非資源分野に強みを持っており、金属事業を除く平均非資源分野比率は実に72%を達成している*2。
総合商社のビジネスは大きく分けて2つに分けられる - 「トレーディング」と「事業投資」だ。
まず総合商社が手掛ける「トレーディング」とは、「仲介業者として需要と供給を結びつける」事業であり、製品を売りたい企業と買いつけたい企業の間に立ってこれらの需要と供給をマッチさせるという、いわば総合商社の伝統的かつ基本的なビジネスである。資源の乏しい日本においては、長年総合商社が外国から資源を仲介して輸入してきたことで、安定したエネルギーの供給を得ることができた。また、海外に機械等を輸出する上での外国の買い手先への仲介なども行ってきた。つまり、日本の良い製品を海外に売って、海外の良い製品を日本に持ってくることで日本の輸出入を支えてきたビジネスモデルと言える。
次に、総合商社が手掛ける「事業投資」は、基本的には株の継続保有を前提として企業に投資を行い、投資先の企業価値向上やシナジーの創出等を図るビジネスである。その際、総合商社は投資先企業に対して自社の従業員を送り込み、事業経営を共同で行う。事業投資の目的としては大きく2つ存在する:取込利益や配当金、キャピタルゲインなどの「直接的利益」と、グループ会社としてのシナジーを生み、協働する事で優位性を出すための「間接的利益」である。取込利益とは会計上の概念で、「投資先企業(持分法適用会社および連結子会社のみ)の利益の一部を、会計上では自社の利益としてカウントしてよい」というルールに基づいて、自社の利益として取り込むことができる利益を指す。それぞれの利益形態について例を交えて解説する。
以下は「直接的利益」の例である。
・総合商社「A社」が欧州スタートアップ企業B社に投資を行うとする。「A社」は「B社」の株式の30%を保有しており、「B社」の業績が良好である場合、毎年安定した配当を受け取ることができる。具体的には、「B社」が年間500万ユーロの利益を上げた場合、「A社」にはその30%に相当する150万ユーロが配当として支払われる。
・数年後、「B社」の技術が市場で高く評価され、その株価が投資時の2倍に跳ね上がった。「A社」はこのタイミングで株式の一部を売却し、購入価格に対して100%のキャピタルゲインを実現した。具体的には、200万ユーロで購入した株式を400万ユーロで売却し、200万ユーロの利益を得ることができた。
・さらに、「B社」の年間の利益からは、「A社」が会計上、自社の利益として取り込むことができる取込利益も発生する。「B社」の年間500万ユーロの利益のうち、「A社」の持分比率30%に応じた150万ユーロを「A社」の利益として計上することができる。
このように、総合商社は他社への投資によって発生した配当金や取込利益、キャピタルゲインなどの形で直接的な金銭的リターンを得ることができる。
後者の間接的利益の例として、コンビニ事業を挙げる。コンビニで商品が販売されるまでに、グループのメーカーや加工会社、物流会社を活用しており、自社グループでバリューチェーンをまとめ上げていることから、コンビニは商社グループ会社のシナジーが現れる好例と言える。
以下に、コンビニ事業において総合商社がどのように間接的利益を生み出しているかを示す。
例:
総合商社「A社」が、コンビニエンスストアチェーン「Cストア」をグループ会社として所有している場合、このビジネスモデルは多方面でのシナジーを生み出すことができる。具体的には、「A社」は食品製造の子会社「D社」、物流会社「E社」、そして加工会社「F社」を含む自社グループのリソースを活用して、「Cストア」の運営を最適化できる。
製品供給の最適化
「Cストア」には、「A社」の食品製造子会社D社が生産する飲料やスナックが供給される。「D社」の製品が「Cストア」で直接販売されることにより、製品の流通コストが削減され、製品の鮮度と品質が保たれやすくなる。
物流の効率化
物流会社「E社」は、「Cストア」への製品配送を担当し、効率的なルートと配送スケジュールを管理できる。これにより、在庫管理が改善され、過剰在庫や品切れが減少する。
加工会社との連携
加工会社「F社」は、特定の商品に対して特化した加工を行い、「Cストア」での独自商品開発を支援する。これにより、「Cストア」は競合他社と差別化された商品を提供できるようになり、顧客の引きつけが可能になる。
これらのシナジーは、総合商社の「間接的利益」として顕著に現れる。自社グループ内でバリューチェーンを完結させることで、各段階でのコスト削減、効率の向上、および市場での競争力強化を図ることができるため、グループ会社全体の経済的健全性と成長潜在能力を向上させることができる。
コンビニエンスストア事業はあくまで一例であり、それ以外にも、シナジーを生み出す事業投資を行っている。それぞれの事業分野において、総合商社はグループ内の企業を活用して、効率的かつ経済的なバリューチェーンを構築している。
これらの事業形態と幅広くダイナミックな業務内容は、グローバルなキャリアパスの他に、海外大生にとって総合商社の大きな魅力の一つと言えるだろう。
総合商社からオファーを貰うまでのステップ
最終的に総合商社からオファーを貰うまで、4年制海外大学の一般的な学生は以下のようなステップを踏む形となる。
①大学生活 ②業界研究 ③エントリーシート ④適性検査 ⑤面接 ⑥インターンシップ ⑦最終面接 →内定
上記の各ステップにおける詳細と学生の対応事項およびTipsを以下に記載する。
大学生活(大学1年生8月頃〜エントリーまで)
概要
文字通り世界を相手にビジネスを行うので、英語や他の言語スキルを持っていることが求められる。これは海外大学に進学した学生にとっては強みであると同時に企業から期待されていることと言える。もちろん日本の企業であるため、流暢レベル以上の日本語能力も求められる。
総合商社各社はエントリー時に大学の成績についても提出することを求めており、大学での成績も企業が重視している要素の一つと言える。実際に最終面接などで成績に関する言及がされる場合もある。
対応事項
上記の事柄を意識した生活を心がけ、取り組むことが大事である。これは就活を変に意識するということではなく、「大学生活を充実させる」ということである。
日本ではできない、海外ならではの経験を積むことは重要である。特に自分一人ではなく、他者を巻き込んだ経験があるとなお良い。 企業側が海外大生に期待する要素として、海外で苦労した経験、そこから得られる他者への受容度の高さ、そして日本人相手とは違うペースを持つ外国人との協働経験(授業のグループワークなど含む)等があるため、それらに力を入れていくと良いだろう。
関心のある事には積極的に足を踏み入れてみること、そうしたチャレンジに足がすくむこともあるとは思うが、是非恐れずに取り組んでみてほしい。
Tips
総合商社の就活を考える際、就活直前の小手先の対策はあまり意味がない。大学1年次からの生活や学習を日々大切に行うことが総合商社の就活においては1番の対策だと言える。
業界・企業研究(大学2年生6月頃~エントリーまで): 各社比較や他業界との比較を徹底する。
概要
総合商社がどのようなビジネスを展開しているのか、特に注力している分野は何か、最近の業界トレンドはどのようなものか、各社の社風や強みは何か、といった点について深く理解することは、総合商社からオファーを貰う上で必須である。 ビジネスモデルや各企業についての理解度を高めることで、自分にフィットする企業を見つけることができる他、面接においても志望度の高さをアピールできる。
対応事項
デスクリサーチを行う。各社のHPのみならず、各社のIR資料や各社に関する他社のコラム、業界全体に対するニュースなど、ありとあらゆる資料をひたすらに読み込む。
各企業の説明会や社員訪問を行う。これらは、デスクリサーチでは得ることができない生の声を得る上で非常に有効な手段である。後者については、Jelper ClubやLinkedIn、ビズリーチなどのツールを活用することで、社員訪問の手配を効率的に行うことができる。
Jelper Clubには、実際に総合商社に就職した会員が多く存在する。Jelper Club上でそういった会員に対して直接メッセージを送り、社員訪問のアポイントメントを取ることが可能である。
Jelper Clubが開催するThe Soirée Tokyoなどには、総合商社で働くJelper Clubの会員も毎回多く来場する。是非The Soirée Tokyoに参加し、Jelper Clubの会員という共通事項を通じて、積極的にコミュニケーションを図ってみてほしい。
Tips
特に有価証券報告書および財務諸表は読み込むこと。ここに、各社の注力領域や得意領域等が記載されているケースが多い。
説明会では、デスクリサーチで得られる情報しか出てこないケースが多い。説明会中および説明会後の質問コーナーで、積極的に自らの仮説に基づいた質問を投げ、良質な生の情報を得ることを意識してほしい。
社員訪問の実績は企業への志望度を示す一つの証拠にもなるため、積極的に行うこと。
社員訪問の依頼メールや訪問時等に、社員の方に礼を失することのないように、ビジネスマナーを確認すること。
社員訪問の依頼は、社員側が空いている時間に確認できるように、電話ではなくメールで依頼すること。
社員訪問の際の質問は、少し調べたら分かるような事ではなく、実際に働く社員の方からしか得ることができないような「生の声」を集めることを意識して質問内容を用意すること。そのためには、最初に用意したいくつかの質問に対して、自分の仮説を用意し、ぶつけてみること。それによって、より良い議論が生まれる他、貴重な回答が得られるケースも多い。 また、作成中の志望理由が果たして真の主張かどうかであるかを確かめるためにも、オープン・クエスチョンのみならず、志望理由をベースにしたクローズド・クエスチョンを投げかけることが重要である。 (例:「A社の理念はXXであり、このXXという理念に惹かれて自分も御社に興味を持っております。実際、このXXという理念は現場の社員間にも浸透していることなのでしょうか?」,etc.)
エントリーシート作成・提出(大学3年生5月頃~エントリー締め切りまで): 経歴や自己PR、志望動機を記入。
概要
自己PRや志望動機では、単にスキルや経験を列挙するだけでなく、自分自身の経験やその背景等を基に、自分がどのようにして総合商社業界で活躍できるか、自身の強みがどのように業界や社風にマッチするかを具体的に示すことが求められる。
それぞれの企業文化や求める人材像に合わせて文章をカスタマイズしていくことが重要だ。これは面接においても同様である。
対応事項
自分史(自分の人生を振り返り、自分がどういった考えを持って、どのように行動してきたのか)を整理すること。小学校低学年から整理していくと良い。覚えている限りすべての内容をノート等に書きながらまとめていく。
自分の人生における経験や考えに基づいた自己PRや志望動機を作成すること。また、それらがロジカルにリンクしていることが分かるような文章を書くこと。
書いた内容や文体を推敲するために友人や先輩などに添削してもらいフィードバックを受けること。
Tips
自分史を作る上では、客観的な評価が極めて重要になってくる。これを機に、是非自分の親族や友人に、自分がどういった行動をしていたのかをインタビューして回るのも良い。
エントリシートの内容に対し客観的なフィードバックを受けることで、文章の内容を改善することができるとともに、自分一人では意識しなかったような自分の特性(強みなど)に気づくことができるようになる。
可能であれば商社の内定を持つ先輩や知り合いにフィードバックを受けることで、より精度を高めることができる。
Jelper Clubには同じように就活している仲間や、既に総合商社の就活を終えた会員が多数いる。是非プラットフォーム上のフィードで、そういった「就活仲間」や「添削相手」、「面接練習相手」を募ってみてほしい。
自分が総合商社で活躍できるような姿を読み手が想起できるような文章を書くこと。そのためには、この段階で各総合商社が求める人材像をクリアにしておく必要がある他、そういった人材像と自分の経験を論理的に紐づける力が必要となる。そのために社員訪問を活用するべきである。
適性検査(大学3年生6月頃~適性検査締め切りまで): SPIやC-GABと呼ばれるテストを受ける。Web上で適性検査を受検できる場合が多いが、テストセンターまで足を運び、適性検査を受ける必要のあるケースも存在するため、事前に確認してほしい。
概要
対応事項
各企業のテストが何なのかを把握すること。
参考書を購入し、問題を把握する。そして何回も解くこと。
Tips
適性検査の関門はその難易度より制限時間の短さにあるため、問題形式に慣れれば慣れるほど成績を上げることが可能である。何回も解くこと。
適性検査は他の企業で前回提出したデータを再利用して提出することが可能なので、総合商社以外で同じ適性検査の受験を求めている企業を受けてみるのも良いだろう。出来が良ければそのまま再利用して提出すること。
面接(大学3年生10月頃~大学4年生6月頃まで): 全体で3-4回の面接を受ける。
概要
一次、二次面接はオンラインの場合が多いが、三次以降の面接では対面での面接になる場合が多い。しかし近年は総合商社の中でも、地方や海外大学の学生に配慮して最終面接もオンラインで行う企業もある。また、三菱商事、三井物産などは一次、二次面接の段階でケース面接を行う場合もある。
対応事項
面接の想定問答集を作成すること。
友達、先輩(可能なら商社の内定者)と面接練習を行う。フィードバックを受ける。
Tips
自分のエントリーシートを踏まえ、面接官の立場になった時にどんな質問をしたいかを想像し、想定できるあらゆる質問に対しての回答を事前に用意すること。これにより、焦ることなく説得力を持って答えることができる。
面接での回答は質問に対して過不足なく答えることを意識する。回答は冗長になりがちなので、面接官にわかりやすく、かつ簡潔に答えることを意識して回答を用意すること。
コンサルで行われるケース面接とは異なり、総合商社のケース選考では対話力や新しいアイデアを生み出す柔軟性が重視されている。思考時間もコンサルのケースよりも短く、発表後の面接官との施策案のディスカッションの時間が長いことから、論理の完璧性に固執することなく、面接官との対話を楽しむことが重要である。
面接練習を積極的に行い、他人から見た自分に対する客観的なフィードバックを受けることで、面接の精度を上げることができる。フィードバックを真摯に受け止め、次への改善点として活用することで、回答の質を上げることができる。
エントリシート同様、自分が総合商社で活躍できるような姿を面接官が想起できるような回答および立ち振る舞いをすることが重要である。社員訪問を通じ、そういった理想の人材像への理解を最大限深めることが、総合商社のオファー獲得において最も重要な要件である。
インターンシップ(大学3年生6月頃~大学4年生6月頃まで): 業務体験を選考の一環とする場合がある。
概要
三井物産などは選考プロセスに一週間弱のインターンを含んでおり、企業理解を深める機会であるとともに、パフォーマンスを評価される場でもある。地方や海外の大学生向けにオンラインの枠もある。
対応事項
総合商社の業務内容を理解するために最適な機会であると同時に、選考の一環であることが多いため、自分の果たす役割について意識しながら取り組むこと。
Tips
企業の求めている人物像を今一度把握し、チームでの自らの振舞いを、その人物像に沿わせるよう意識して行動することが重要である。
企業の求めている人物像に関する定性情報こそ、企業で実際に働く人に会って取得するべきである。
最終面接(大学4年生10月頃~大学4年生6月頃まで): 役員クラスとの面接。
概要
基本的に他の面接と聞かれることは変わらないが、面接官の職位が役員やその一つ下クラスである。
最終選考まで進んだ段階で能力選考はほぼ終わっていると考えられ、志望度や熱意などが合否を分けるポイントとなってくる。他社よりも志望度が高いという点を、自らの経験等を交えながら主張にすることが、説得力という観点で重要である。
対応事項
準備することは他の面接と変わらない。
対面面接の場合が多いので、就活マナー(ノックなど)の確認を行うこと。本質的ではないが、悔いの残らないように対策すること。
Tips
自分の熱意や志望度、強みなどを嫌味なくアピールすることが大事である。面接官に「一緒に働く」イメージを持ってもらえるような受け答えを意識すること。
このタイミングでは、事前に必ず自分史を振り返ること。自らの経験に基づいた主張は、深みが出るため、説得力が一段と増す。
毎年選考スケジュールは変更になることがあり、また海外大生向けのスケジュールを設ける企業もあるため、各企業の新卒採用ページで詳細なスケジュールや募集要項を確認すること。
まとめ
今回は日系企業の中でも就職人気の高い総合商社について触れた。円安の追い風や再生エネ、DXなどの成長分野の収益貢献により業績好調の総合商社各社であるが、新卒就活人気や選考倍率についても、今後数年間は高水準を維持することが予想される。海外大生にとっては選考スケジュールやOB訪問の難しさなどによって、国内大学の学生と比較して不利だと感じる場面もあるかもしれない。しかし、日本では得られない経験を積んだ学生を採用したいという思いが総合商社各社にあることも確かであり、業務内容に関心がある学生は積極的にチャレンジしてみてほしい。
出典・注記
1.「 就職希望ランキング(総合順位)」(CFN):
2. 「4つの強み」(伊藤忠商事株式会社):
3. 「そもそも総合商社とは?」(伊藤忠商事株式会社):