日本で就労する上で、家探しは不可欠なプロセスである。せっかくJelper Clubを通して就職先を見つけることができたのに家探しに難航してしまう、そんな事態に陥らないために、この記事では、日本の住宅市場の概要、賃貸契約のプロセス、外国人が遭遇する特有の問題に焦点を当て、住宅探しのプロセスをスムーズに進めるための具体的なアドバイスを提供する。
日本の住宅市場の概要
A. 市場の特徴
日本の住宅市場は非常にユニークで、初めて家探しを行う外国人にとっては分かりにくい場面も多い。そこで、まずは日本の住宅市場特有の特徴を挙げていく。
住宅のサイズと設計
日本の都市部では、特に一人暮らし向けのワンルームアパートメントや1DK(1部屋+ダイニングキッチン)タイプのマンションなどが大部分を占め、住宅が非常にコンパクトであることが一般的である。これは、都市部における土地の制約が厳しいことが主な原因である。限られたスペースを最大限に活用するため、家具や収納スペースも工夫されていることが多い。近年では、コンパクトながらも機能性やデザイン性を追求した物件も増えている。一方、郊外地域では比較的広々とした戸建て住宅や、ファミリー向けのマンションも多く見られる。
初期費用の構造
日本の賃貸市場特有の初期費用には、敷金(保証金)、礼金(非返還の礼金)、仲介手数料などが含まれ、これらは全体の初期費用を大幅に増加させることが一般的である。
敷金: 家賃1~2ヶ月相当の金額が敷金として要求される。これは、入居者が退去時に損害を与えた場合に備えて家主が用意するものである。退去時に問題がなければ、敷金は全額返金される。
礼金: 家賃1ヶ月相当の金額が礼金として要求される。これは、家主への謝礼金として支払われるもので、退去時に返金されることはない。近年では礼金が不要な物件も増えている。
仲介手数料: 家賃1ヶ月~1.5ヶ月相当の金額が仲介手数料として、不動産会社に支払われる。これは、物件探しや契約手続きなどの仲介業務に対する報酬となる。
住宅アクセスと公共交通
東京、大阪、名古屋など日本の大都市圏では、電車、バス、地下鉄などの公共交通網が発達しており、多くの住宅が駅から徒歩圏内に立地している。そのため、車を所有していなくても快適に生活することができる。近年では、自転車専用道路の整備も進められており、自転車での移動も人気が高まっている。一方、地方都市や農村部では、公共交通機関が限られている場合があり、車が必要となるケースも少なくない。
長期契約
日本の賃貸借契約は、一般的に2年間の定期借家契約となる。契約期間満了後は、更新手続きをすることで継続することができる。 契約更新時には、更新料と呼ばれる手数料が発生する場合が多い。更新料は家賃の1ヶ月分程度が一般的である。
地震などの災害
日本の物件は、地震や津波などの自然災害の影響を受けることを想定すべきである。これらの災害は、建物の損壊や倒壊、インフラの破壊などを引き起こし、混乱を招く場合がある。
家探しにおける地震・災害対策
ハザードマップを確認する:自治体によっては、洪水や土砂崩れ、津波の危険性などのリスクをまとめたハザードマップを作成している。ハザードマップを確認することで、住む地域の災害リスクを把握することができる。
インフラを確認する:地震や災害発生時に避難したり、ライフラインを確保したりするために、病院、学校、消防署、警察署などの公共施設や、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの商業施設へのアクセスを確認することが重要である。
建物の構造を確認する:耐震性や耐火性に優れた建物を選ぶことが重要である。
B. 東京の住宅市場
市場の概況
東京は、世界屈指の大都市であり、人口約1,400万人を擁する巨大な都市圏である。住宅市場においても、世界で最も活気にあふれた市場の一つであり、人口の多さ、経済活動の集中、限られた土地面積などの要因により、住宅需要は常に高く、価格も上昇傾向にある。コロナ禍を終えた近年では、外国人居住者の増加や、都心回帰の流れなども東京の住宅市場に影響を与えており、東京の住宅需要はさらに高まっている。
人気エリアとその特徴
不動産ポータルサイトであるホームズの東京都の家賃相場情報によれば、2024年5月10日現在の東京23区ワンルーム・1K(1部屋+キッチン)・1DK(1部屋+ダイニングキッチン)の家賃相場は以下の通りである*1。
若者向けエリア
渋谷:ファッション、音楽、アートなど、様々なカルチャーが発信されており流行の最先端を行く街として知られる渋谷は、若者に圧倒的な人気を誇るエリアである。また、渋谷駅は主要な電車路線が乗り入れている交通の要衝であり、新宿や池袋などの他の繁華街や東京や品川、六本木などのオフィス街へのアクセスも良好である。近年はベンチャー企業を中心に渋谷にオフィスを構える企業も増えている。
新宿:新宿は、高層ビルが立ち並ぶビジネス街と繁華街が一体となった巨大なエリアである。 百貨店や家電量販店、レストランなどが立ち並び、あらゆるものが揃う街として人気である。また、新宿駅は世界最多の路線数が乗り入れるターミナル駅であり、日本全国各地へのアクセスも良好である。
ファミリー向けエリア
二子玉川:緑豊かな公園や多摩川沿いにはテラスカフェが立ち並ぶ二子玉川は、ファミリー層に人気の高いエリアである。駅直結のショッピングモールや大型スーパーもあり、子育て世帯にとって便利な環境が整っている。また、治安も良く、教育環境も充実しているため、安心して暮らせる街として人気である。
世田谷区:高級住宅街として知られる世田谷区は、閑静な住宅街と緑豊かな公園が調和したエリアである。区内には砧公園や駒沢オリンピック公園など、大きな公園が複数あり、自然の中で子育てを楽しめる環境が整っている。また、私立の学校も多く、教育環境も充実している。
ウォーターフロントエリア:近年、お台場や豊洲などのウォーターフロントエリアは、再開発が進み、高層マンションや商業施設などが立ち並んでいる。都心へのアクセスも良好で、海を望む眺望も楽しめることから、人気が高まっているエリアと言える。
外国人向けエリア
港区:六本木、青山、麻布など、高級住宅街として知られる港区は、外国人の居住者も多いエリアである。大使館や国際機関も多く立地しているため、国際色豊かな街として人気である。また、都心部に位置しているため、オフィスへのアクセスも良好である。また、英語対応可能な不動産会社や医療機関が多いことも外国人にとっては重要な要素である。
住宅のタイプと価格範囲
マンション:東京の主要な住居形態であり、ワンルームからファミリー向けまで、様々な広さの物件がある。価格は、立地、築年数、設備などによって大きく異なるので不動産ポータルサイトで自分の希望条件を入力して検索することをおすすめする。
アパート:マンションよりも家賃が安く、学生や単身者によく利用されている。ただし、築年数が古い物件が多く、設備が整っていない場合もある。
一戸建て:都心部では一戸建て住宅は少なく、郊外エリアに多く見られる。価格は、土地の広さや建物の規模によって大きく異なるが、都心部から離れた郊外エリアであれば、3,000万円程度で購入できる物件もある。
表1:東京23区ワンルーム・1K・1DKの平均家賃相場
区名 | 家賃相場 | 世田谷区 | 9.49万円 |
千代田区 | 13.88万円 | 渋谷区 | 12.56万円 |
中央区 | 12.13万円 | 中野区 | 9.07万円 |
港区 | 13.14万円 | 杉並区 | 8.65万円 |
新宿区 | 11.31万円 | 豊島区 | 10.24万円 |
文京区 | 10.67万円 | 北区 | 8.80万円 |
台東区 | 11.19万円 | 荒川区 | 8.48万円 |
墨田区 | 10.03万円 | 板橋区 | 8.28万円 |
江東区 | 10.46万円 | 練馬区 | 7.72万円 |
品川区 | 10.11万円 | 足立区 | 7.29万円 |
目黒区 | 11.84万円 | 葛飾区 | 7.03万円 |
大田区 | 8.70万円 | 江戸川区 | 7.32万円 |
賃貸契約のプロセス
在留カード発行
ビザと滞在許可の解説記事は後日公開予定。
短期滞在先手配、住民登録
日本に入国後すぐに賃貸契約をすることはできない。一度、住民登録ができる所に短期滞在が必要である。
例:マンスリーマンション、シェアハウス、親戚や知り合いの家
ホテルでは住民登録できない。
マンスリーマンションを一時滞在先として賃貸契約を結ぶことで、マンスリーマンションの住所で住民票の登録を行うことが出来るようになる。マンスリーマンションの契約は入居審査基準が緩い一方で、基本的に最長1年未満なので注意。
住所登録可能なマンスリーマンションを紹介しているウェブサイト例:
パスポートと在留カードを持って、住所を定めた日から14日以内に住民票の取得を行う。
住民登録を行うことで実印を作成することが可能になる。
実印はインターネットや店舗で作成可能。
実印作成サイト例:ハンコマン
実印は賃貸契約の際に必要になる場合が多い。
銀行口座の開設
会社が発行した、会社在籍証明書が必要になる場合がある。
銀行口座開設プロセスのガイドは後日公開予定。
携帯電話の契約
日本で使用可能な電話番号の取得。
賃貸契約時に入居者の連絡先として必須になる。
物件探し
物件探しは不動産ポータルサイトや地元の不動産エージェントを通じて行うことが一般的である。大都市では選択肢が多いが、競争も激しいため、希望条件を明確にしておくことが重要である。具体的なポータルサイト例は、下記「住宅探しのためのプラットフォームとリソース」セクションを参照。
条件:家賃、間取り、立地、設備、築年数、セキュリティ、リフォーム、(駐車場、収納、ペット、日当たり、眺望など)
内見
内見を希望する物件が見つかったら、その物件を扱う不動産エージェントに連絡する。多くの不動産会社やポータルサイトでは、オンラインで内見の予約が可能である。物件リストから内見を希望する物件を選び、「内見予約」や「お問い合わせ」のリンクを通じて申し込むことができる。オンラインよりも迅速な対応を求める場合は、不動産会社に直接電話して内見の予約を取ることも考えられる。
実際に物件を訪れ、その状態や周囲の環境を確認する。内見時には、自然光の入り方、騒音の有無、設備の状態など、日常生活に影響する多くの要素をチェックするべきである。
申し込み
物件が決まったら、申込書を提出する。入居申し込みの段階においては以下のものが一般的に必要になるケースが多い:
パスポート
在留カード
住民票の写し
在職証明書、社員証
緊急連絡先(日本在住の日本語が話せる人)
保証人、保証会社
印鑑
日本の銀行口座、クレジットカード
契約条件の確認
契約書には、家賃、敷金(保証金)、礼金(非返還金)、管理費、更新料などの条件が含まれる。また、保証人の要件や、保証会社を利用する場合の条件も確認する。
初期費用の支払い
日本の賃貸市場では初期費用が高額になることが多く、敷金(1~2ヶ月分の家賃)、礼金(0~2ヶ月分の家賃)、仲介手数料(1ヶ月分の家賃)、前家賃、保証会社利用料が一般的である。
契約書の署名と印鑑
契約書は日本語で書かれているため、内容を正確に理解するには翻訳が必要である。契約時には、印鑑(または署名)を用いて正式に契約を結ぶ。
入居の申込みには「認印」、家賃の口座引き落としを希望する場合は「銀行印」、契約書は実印での捺印を求められたら「実印」が必要になることが一般的である。ただし不動産会社からの指定がなければ、「認印」でも賃貸借契約の締結は可能。
「認印」とは書類の内容に対して「確認しました」「了解しました」といった承認意思を示すために使う印鑑。法的効力はあまり強くないため、重要なシーンでは使えないことも多い。
「銀行印」とは銀行・信用金庫・信用組合などの金融機関に印影の届出をしている印鑑。お金を下ろす人が預金者本人かを確認する役割を持つ。
「実印」とは住民登録をしている市区町村の役所に戸籍上の名前を彫刻したハンコを登録申請し、受理された印鑑。
「実印」と「銀行印」を併用することも可能である。
英語対応を行っている不動産エージェントについては下記「住宅探しのためのプラットフォームとリソース」セクションを参照。
鍵の受け取り
契約が完了し、初期費用の支払いが済むと、物件の鍵を受け取る。この時点で、その物件の正式な入居者となる。
電気・ガス・水道の開通
外国人が直面する特有の課題
言語の壁
日本の不動産市場では、ほとんどの情報が日本語で提供される。契約書や法的文書も同様で、これらの理解が困難な場合が多い。日常会話レベルの日本語能力があったとしても契約書類の確認に手間取る場合も多いため、通訳サービスや日本語が堪能な友人の助けを借りることが重要である。もしくは、外国語対応の不動産エージェントを利用することも考慮すべきだろう。詳細は下記「住宅探しのためのプラットフォームとリソース」セクションを参照。
保証人制度
多くの賃貸契約では日本人の連帯保証人が必要とされるが、日本に拠点の無い外国人にとっては保証人を見つけることが非常に困難である。この問題を解決するため、多くの不動産会社やオンラインプラットフォームでは保証会社を通じたサービスを提供している。以下は外国人入居者向けの賃貸保証会社の例である:
21カ国対応
8カ国対応
21カ国対応
21カ国対応
11カ国対応
11カ国対応
近年は保証人なしで賃貸契約ができる物件も増えている。不動産ポータルサイト上の検索選択項目でも保証人の有無を選べるようになってきているので、保証人を必要としない物件に目を向けるのも良いだろう。
入居制限
一部の賃貸物件では外国人の入居を制限している場合がある。これは残念ながら外国籍の入居者が、コミュニケーション、文化や生活習慣の違い、家賃滞納、といった点で日本人の入居者よりも信用度が低くリスクが高い傾向にあることが原因である。しかし家主に対して、信頼できる保証人および外国籍にも対応可能な保証会社を利用していることや、日本語や日本の生活習慣に関する知識を持っていることを伝えることで、こういった先入観による制限を和らげることができるはずだ。また外国人の入居実績のある物件を扱う不動産業者を選ぶことで不要な衝突や混乱を避けることができるだろう。
文化的な違い
日本の住宅特有の文化的な作法に戸惑うことがあるかもしれない。例えば、室内での靴の使用禁止や、ゴミの分別方法など、日本特有の生活習慣やルール、マナーについて理解を示し、できる限り守るべきである。
初期費用
日本の賃貸市場の初期費用は、礼金や敷金、仲介手数料など、多額の出費が伴う。これらの費用は家探しの予算計画において重要な要素であり、事前に詳細を把握しておくことが大切である。
契約更新の手数料
日本では賃貸契約の更新時に更新料が必要な場合がある。予期せぬ追加費用とならないように、契約時には更新条件を明確に理解している必要がある。
住宅探しのためのプラットフォームとリソース
不動産ポータルサイト:これらのウェブサイトは、広範囲の物件情報を提供し、検索機能を使って条件に合った物件を簡単に探すことができる。
物件数No.1で希望に合致する物件を見つけやすい。
間取りから探せるので、理想の住空間を見つけやすい。
多くの人が利用しているので、情報量が多く、活発な口コミが参考になる。
掲載物件の仲介手数料が無料になるなどの特典が多くある。
全国6万店以上の不動産会社が加盟しており、網羅性が高い。
引っ越し手続きもまとめてサポートしてくれる。
外国語対応の不動産エージェント
オンラインコミュニティと掲示板
同じ境遇の外国人や長く日本に住んでいる経験者からの情報は、住宅探しにおいて貴重な手がかりとなる。 Facebookグループやオンライン掲示板を調べるのは有用な方法だ。ただし、一定数詐欺的な投稿も散見されるため、注意して活用すること。
Jelper Clubの活用も推奨できる。Jelper Clubには多くの日本で働く外国人の会員が在籍しているためである。疑問があれば「Feed」にて質問を投稿したり、「Connect」で繋がったユーザーにコンタクトをとって、家探しの体験談を聞いたりすることもできる。運が良ければ、おすすめの不動産エージェントを紹介してもらうこともできるだろう。
実際に地域を訪れる
オンラインでの情報収集と並行して、実際に住みたい地域を訪れ、地元の不動産ショップを訪ねるのも一つの手である。地元のエージェントは地域に精通しているため、未掲載の物件情報を提供してくれることがある。
まとめ
この記事では、日本、特に東京の住宅市場における重要な特徴とプロセス、また外国人が日本での住宅探しを行う際に直面する可能性のある課題とその解決策に焦点を当て、詳しく解説した。日本での住宅探しは、計画的に進めることが成功の鍵である。このガイドが、日本での新生活をスタートする際の一助となることを願っている。
出典・注記
「東京都の家賃相場情報」(ホームズ):https://www.homes.co.jp/chintai/tokyo/city/price/
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