「通年採用」拡大の実態と学生への影響——海外大生と日本国内大生間における就活格差の収斂
- Daichi Mitsuzawa
- 1 日前
- 読了時間: 6分
日本の就活は「春に始まり夏に山場」という単線の儀式ではなくなりつつある。政府は、広報開始は3月1日、選考開始は6月1日、正式内定は10月1日という原則日程を当面維持する一方、一定要件を満たすインターンシップでの成果を起点に、実務においては通年で学生側と接点を持つことができるような運用を認めた*1 *2。つまり、表のルールは据え置きながら、裏の運用はインターン連動で柔軟化しているのである。
この変化は、労働市場の需給ギャップに起因している。求人意欲は堅調で、2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍(前年1.75から小幅低下)と依然「売り手」の温度感が続く*11*12。とりわけ300人未満企業は8.98倍という高倍率で、規模によって採用の息遣いが異なる*14。こうした背景のもと、日立の「365日入社」や富士通の「新卒一括採用廃止と通年化」といった象徴的な動きが現れ、採用は季節の枠から“通年の文法”へ拡張している*6 *9 *10。本記事では、通年採用の制度・普及度・市場データを整理した上で、今後の海外大生の就活トレンドについて記載していく。

制度の現在地——表は日程維持、裏はインターン連動
政府の枠組みは明快である。広報は3月1日(対大学3年生)、選考は6月1日(対大学4年生)、内定は10月1日(対大学4年生)——このスケジュールは当面据え置きである*2。しかしながら、産学協議会が整理した4類型のうち、タイプ3(汎用的能力/専門活用型インターンシップ)およびタイプ4(高度専門型インターンシップ)で能力が確認された学生については、周知期間を短縮して6月以前から選考プロセスへ移行させることが可能と明示された*1 *2* 3。形式遵守と柔軟運用の二本立てが、現在の政策トーンである。
この「タイプ3」「タイプ4」は、就業体験の必須化、期間・情報開示、評価観点などの要件が詳細に定められており、インターン情報を選考に活用できる"唯一の導線”として位置づけられた*3 *5 *7 *10。結果として、インターン→本選考の橋渡しが通年化を実質的に後押ししていると言える。
補記(主要ルール):
広報:卒業・修了年度直前の3/1以降
選考:卒業・修了年度の6/1以降
内定:卒業・修了年度の10/1以降
タイプ3(専門活用型)・タイプ4(高度専門型)のインターンシップの成果を前提とする場合は、6月にとらわれない運用が可能*2。
普及度と象徴事例——「季節+通年」の複線化
経団連が2021年に実施した調査では、新卒の通年採用を実施する企業が33%、5年先の見通しで55%に達するとされる。他方で新卒一括採用は91%→79%へと縮小見込みで、置換ではなく共存・複線化が現実的シナリオである*4。現場では、既存の季節採用を軸にしつつ、ジョブ型あるいは補充枠として通年採用を導入するといった運用が広がっている。
既に大手企業による通年採用実施の事例も出始めている。日立は2020年に「365日入社」を導入し、卒業後1年以内の任意時期入社を可能にした*6。富士通は2026年度から新卒一括採用を廃止し、新卒・中途の区分や人数計画に縛られない通年・ジョブ型へ移行すると公表した*9 *10。
労働市場の温度感——“売り手”の中身を読み解く
足元の求人倍率は1.66倍で、コロナ後の回復基調から小幅に反落したものの、採用意欲の基調は強い*11*12。注目すべきは企業規模別の需給ギャップである。300人未満企業は8.98倍と極端な人手不足で、5,000人以上の大企業は横ばいに近い*12。学生の体感が「志望先の規模や業種」で大きく異なるのはこのためであり、中小は通年で拾い続けたい動機が強く、大手は季節(基幹)+通年(ジョブ型・補充)の二層運用に収斂する。
一方、政府の実態把握では、説明会参加のピークが前年9月以前へ早まるなど、早期化・長期化の傾向も確認されている*8 *9。制度の三つの節目が生きている以上、内定のピークは春〜初夏に残りやすい。ゆえに学生側は、年明け〜春の仕掛けと、秋冬の通年・補充を併走させる時間設計が合理である。
海外大・留学生の視点——“不利”の構造は薄まる
政府要請は学事暦への配慮と多様な選考機会の確保を明記しており、制度面では追い風である*1*2。通年入社(例:日立)や一括採用廃止(例:富士通)の登場は、3月卒業を前提とした日本企業の就活スケジュールをひっくり返すものであり、海外大生にとってはより就活しやすくなるためである*6*9*10。とはいえ、三つの節目は採用のリズムに深く刻まれている。海外と日本の二重カレンダーを前提に、春の季節募集へ向けて接点(オンライン面談・短期就業体験)を前広に確保し、通年採用ポジションへの応募を平行走行させるのが現実的である。
就活生へのTips:
現地学期末〜日本の広報解禁(3/1)までに、研究成果や実務におけるアウトプットの要約版(和英)を整える。
企業に応じて、自己分析や志望動機も整える。
タイプ3・4の受け皿と随時入社制度の有無を、企業IRや採用ページで一次確認する。
まとめ
通年化は、学生に選べる自由を与えつつ、自律と設計を求める制度である。原則日程という表のリズムを外さず、裏の運用(インターン連動・通年採用)を取りにいく。これにより、海外大生にとって至難の業であった「日本の就活の準備」が遥かに楽になり、海外で学んできた知識や経験を存分に発揮することができるようになるだろう。
通年採用以外にも、新卒に対するジョブ型雇用の導入や成果主義、年功序列の廃止など、今後日本の「就活」のみならず「働き方」も更に進化していくことが予想される。とはいえ、日本企業の良さである「人を大事にする」文化は、日本の慣習上今後も維持されていくだろう。
生成AIの発展と共に「人を大事にする」空気が世界的に薄れている今、日本でキャリアをスタートさせるという選択肢こそが、人生を豊かにする上でもカギとなってくるのかもしれない。
(編集: Jelper Club編集チーム)
出典・注釈
「2025(令和7)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請事項」(内閣官房):cas.go.jp
「大学等卒業・修了予定者の就職・採用活動時期について」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184189_00002.html?utm_source=chatgpt.com ; 「令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります」(厚生労働省):https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/content/contents/001260876.pdf
「産学で変えるこれからのインターンシップ(4類型リーフレット)」(経団連):https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_leaflet.pdf
「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」(経団連):https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/004_kekka.pdf
「よくあるご質問(FAQ)—タイプ3の定義・要件」(経団連 産学協議会):https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_faq.pdf
「通年入社(365日入社)制度の導入」(日立製作所):hitachi.co.jp
「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組(3省合意・要件)」(経済産業省):meti.go.jp
「2026年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方(実態調査含む)」(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001348775.pdf
「就職・採用活動に関する要請(総合ページ)」(内閣官房):cas.go.jp
「何が変わるの?これからのインターンシップ(学生向けリーフレット)」(経団連):https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_leaflet2.pdf
「大卒求人倍率調査(2026年卒)— 概要ページ」(リクルートワークス研究所):https://www.works-i.com/surveys/report/250424_recruitment_saiyo_ratio.html
「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)— プレスリリース/PDF」(リクルートワークス研究所・Indeed Recruit Partners):https://www.works-i.com/surveys/item/250424_recruitment_saiyo_ratio.pdf
「富士通、新卒一括採用を廃止 職務・専門に応じ通年募集」(日本経済新聞):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07B870X00C25A3000000/
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